悲しい目をしたマユゲ犬2.0

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元長柾木「全死大戦 (1) サイレント・プロローグ」/「全死大戦 (2) 少女覚醒」

共に読了。ものすごい小説が来ました。感想に際し、ネタバレはなるべく書きません。
全死大戦(1)  サイレント・プロローグ (角川文庫)全死大戦(2)  少女覚醒 (角川文庫)
ISBN:4043943253 ISBN:4043943261
それぞれ「飛鳥井全死は間違えない」「荻浦嬢瑠璃は敗北しない」の改題・加筆修正による文庫化ですが、読後のこの違和感は何だろうと少し考えていました。
作者の独特の世界を形作る構成要素としては、些かの衒学趣味、多大なメタ要素、装飾過多な文体、少々の伝奇、加えてライトノベル的軽やかさ、そしてセカイ系。Sense of Wonderとは誰が最初に言ったのか知りませんが的確な表現だと思います。文や思想そのものはひどく形而上的でありながら、精神の内面へ収束しつつ発散しているかのような混沌具合に一種の気持ち悪さを感じるのが、おそらく私の違和感の一つ。また、物語の世界において徹底したある種の選民思想や、ルサンチマンの存在とその解決(の名を借りた『崩壊』)、その他、設定という名の記号的要素が物語上でゲーム的に適合されるのは、例えば西尾維新の作品然り、昨今の流行なんでしょうか?つまるところ「ゲーム的リアリティ」。
違和感のもう一つは、人物たちが物語において己の役割に極めて自覚的である、という点。物語はコンテクスト(文脈)と換言してもいいかもしれません。作中では人間の根源に対する「メタテキスト」という概念、あるいはその上位存在(ネタバレなので伏せますが)など、独自の形而上的概念が多数存在しており、それらに対して自覚的、という方がより正しい表現な気もしますが、要するに人を取り巻く感情であったり環境であったり、ものすごく極端に言えば「愛」が婉曲と迂遠を重ねた状態で物語として編まれているように感じます。ただし、物語におけるそれらの解決は一種のデウス・エクス・マキナの手法だったりするあたり、やや突飛であることは否めません。
この作品はセカイ系のカテゴリに当てはめてもいいと私は思っていますが、それが(おそらく作者によって自覚的に)かなり極端に描かれている分、文としての読みにくさは相当あると感じます。すげえ乱暴な言い方をすれば「清く正しい中二病」。もちろん物語の構成要素のいち側面であり、決して一意的な表現ではありませんが、おそらくこれが最も伝わりやすいかと。文も世界観も極めて個性的なため、他人にはやや勧めづらい作品*1です。


追記:ゲーム「Sense Off」と一部世界観を共有しているみたいです*2。「認識力学研究所」とか。

*1:つまらないとか面白くないとか言っているのではありません、念のため。

*2:プレイしたことはないので、それについて言及することは出来ません