悲しい目をしたマユゲ犬2.0

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フリックドロップ

同人ノベルゲーム。全て読了。感想とかぐだぐだ書きます。
http://dot17.sakura.ne.jp/frikkdrop/index.html
名作。超名作。知らない人はとりあえず今すぐ買ってこい。
と、こんな強い言葉で始めたにもかかわらず、知ったのは半年前、買ったのは2ヶ月前、プレイし終わったのがついさっきという情報収集&処理の遅さに定評があるダメっぷりですが、調べて良かった。なぜなら危うく2010年度同人ゲーム個人的MVPとか書きそうになったから(発売は去年の8月です)。あぶねえ!2009年度に訂正。MVPは間違いないです。つうか殿堂入り。まあ終わった時点ので考えれば今年度でも良いんですがそんな些事はどうでもよろしい。
追記:その前に一応これ貼っときます→吉里吉里製ソフトをワイドディスプレイの全画面でもアスペクト比固定する方法


まずはついったーの感想から。

01:21 フリックドロップ全部終了。もう10回くらいボロ泣きした。3年分くらい泣いた!知らない人は今すぐ買ってきましょう!つーかプレイしろ今すぐだおらあああヽ( ´ω` )ノ
01:29 もうこれ今年度最高の同人じゃとか思ってたら去年発売だったぎゃわーおせえ!
01:53 一部設定とか細かいツッコミなぞどうでもよくなるくらい全体の構築と説得力が素晴らしかったのでもう文句ない。これだから同人は素晴らしい
01:58 ラスト1/4くらいはもう涙流しっぱなしでしたねはいはいきもいきもい と言われようと名作。神と書いて名作と読む
02:35 フリックドロップのシナリオさんどっかで見たことあるような……と探したらオリこんの人じゃん!なんだこの巡り合わせ!神でもいるのか!
02:38 なんか今久しぶりにすさまじい偶然を味わった。ネットこえー。すげー。たまんねー。
05:00 あとシナリオ担当さんは森博嗣好きなんだろうなー

さて、閑話休題。キャッチコピー通り、これは人とロボットとのSF物語ですが、ここでいうロボットはHタイプ(ヒューマノイド)とIタイプ(インダストリアル)に分類され、Hタイプの方は外見に仕草や感情表現、その他何から何まで人間と何ら変わらないレベルまで達した世界においてのお話。有名なアイザック・アシモフロボット三原則を根底に、人間とロボット(とりわけHタイプ)が共存するにあたり考え得る限り様々な問題や軋轢を見事に描きつつ物語として昇華し、圧倒的な構成力で劇的にまとめ上げたシナリオ担当さん2人にスタンディングオベーション。構成というのは、シナリオをA sideとB side、異なる場面と人物達の物語が交互に並行して進むという、やや変則気味の提示方法なんですが、これが後になって気付くもの凄い効果。始めAとBは物語上平行線のように見えるのに、徐々に螺旋を描くかのように絡まり合い、最後にはある一点に収束します。ここにいたって読者側は、互いのシナリオに存在する数多くの伏線や全く謎だったあらゆるピースが続々とはまるが如く、強烈なカタルシスを得るわけですよ旦那。設定の細かいツッコミや誤字の多さなぞこの際どうでも良くなるくらい、全体の構築と説得力が素晴らしかったのでもう文句ない。文句の付けようがないです。(大事なことなので2度言いました)
ごめんひとつだけあるけど(ぉぃ)。それは音楽。場面における使い方とか雰囲気が合ってないとかそういう演出面の話ではなく、単純に音楽単体としてのクオリティが致命的に良くなかったです。全部ではありませんが、非和声音の使い方が音楽やってる人間からすると信じられないくらいの和声学的ひどさ。これさえなければ……。
というわけで、100点満点でいうと95点。内訳=シナリオ&グラフィック200点−音楽105点。100点満点意味ねえとか言わない。


ここからは具体的な固有名詞や現象等はなるべく挙げませんが抽象的にネタバレします。まだ知らない人は回れ右ー。
この物語はつまるところ「(生殖と寿命以外)全てにおいて人間と何ら変わらないHタイプロボットと人間に愛は認められるのか」というのが本題にして本質。この手の題材にありがちな「ロボットに愛は存在するのか」ではないのがミソ*1。しかし、愛憎の言葉通りロボットの殺人可能性、生殖の問題、既存の倫理観や法etc、あらゆる問題が予想されますし実際それらは降りかかりますが、ここでロボット側の要になるのは生命としての「個」(即ちアイデンティティ)、そして個を個たらしめる「心」、「魂」。前述の課題から発展して、これらを持つHタイプが人間と次世代を育むことが出来るのか、という愛から更に一歩具体的に進めた問いこそこの物語における大きな命題であり、ひとつの終着点、あるいは特異点となります。いっそパラダイムシフトと換言してもいいかも。言ってしまえばこれこそがライラック構想の投げかけた問いと結論であり新たなる命題でもあるのですが、ともあれ、人とロボットの異種混合(ハイブリッド)に着眼した点とその解決法は極めて素晴らしいと感じます。もう目から鱗が落ちまくりでついでに古い角質も落ちまくり。もっとも、そもそも答えが存在しない命題の上にどう考えても幸せよりも困難の方がつきまといそうですが、その結末は……書きませんよ。その目で確かめましょう。
次世代へ受け継ぐ、という点ではキャラクターの丁寧な描き方も特筆すべき点です。継ぐものは血であったり思想であったり志半ばにして絶たれた遺志であったり、そして世代を超えて再び人とロボットが交わるその構図であったり。それぞれの人物が抱えるもの全てに意味があり、個性があり、それらが物語をより一層豊かにしています。なんだかんだいってソウラが一番重いものを背負って生きてますよね。表に全く出さない(にもほどがある)けどあの生き様の格好良さはずるい。反則的。
もう一つ個人的に興味深い点は、ロボットの生存権ならぬ「死ぬ権利」。ロボット三原則を改めて引用しておくと。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

Wikipediaより。
見ての通り基本は生存に関わるものですが、さてここで問題。
ロボットが「死にたい」と訴えた場合、人間はどうすべきか。あるいはその逆も然り。
これはHタイプのみならずIタイプにも属しますが、このややこしすぎる葛藤も物語中で描かれますのでここでは記しません。というか、この三原則から生まれる様々な可能性を作中でも議論しており、そこも大きな見所ですね。
さて、最後はついったーからの感想抜粋で。

02:08 あーそうか遺体が腐ってないのはフリックの記憶の性質にあるのか。今気付いた。
02:47 実は一番すごいのって銀細工屋のじーさんだろうなー。隠れMVP

邂逅シーンの作中に補足がない割に場面的にそこ重要だろとか思ったんですが、よくよく考えればこういうことでしたね。
でもって人を見る目がありすぎるじーさんマジ最強。実は元ロボット工学者じゃね?とか思うと色々妄想出来ますがここでは特に言及しません。その方が面白いし。

*1:愛はすでに観測・存在しているから