悲しい目をしたマユゲ犬2.0

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冬目景「羊のうた 1〜7巻」

忙しいってのに全巻読了してみました。
代表として1巻のみ表示。
羊のうた (第1巻) (バーズコミックス)ISBN:4344800222
すごい。エロ描写はないのにえろい。救われない悲哀エロ。……えろえろと連呼してますが、読み手の受け取り方次第なので、そこんとこ誤解なきよう。
血を通して娘が妻に重なる父、血を通して母を重ねられ囚われる娘。えろい。長く別れていても血を通して繋がる姉と弟の絆。えろい。血が齎す父の呪縛。えろい。呪われた血の絆に入り込めない、恋模様。あーもう、えろい。
血って象徴的意味では結構な多義語ですよね。暴力の象徴だったり、生命の象徴だったり、絆の象徴だったり。それら全ての意味がこの作品に含まれています。理性を失わせる呪われた暴力の血、望み無き未来へ抗うように必死に生きようとする生命の血、受け入れ、あるいは拒むことで繋がる絆の血。血に囚われ、呪われ、翻弄され、それでも絆を紡ごうとする人間たち。美しいと呼ぶにはあまりに残酷な血の絆が描かれています。
また、吸血行為というのはある種のエロティシズムが含まれると同時に背徳も含みます。それを血縁者同士で行うのですからこれは最早禁忌に近い。血縁という言葉もこの場ではうってつけですね。禁忌と血が齎す縁(えにし)。えろいわけです。(やっぱそこかよ
そして何より、「羊のうた」というタイトルが秀逸すぎます。羊は臆病とか迷えるもの・弱きものの象徴ですが、作中で千砂は自分のことを「牙を持った羊」と半ば自虐的に言います。血に囚われ希望を捨てた者は外部との繋がりを牙でもって積極的に排除することで生きるしかないという、ある種の弱きものの象徴としてタイトルが後々響いてきます。最後(最期)は救いであると思いたいところです。
血と羊という2つの象徴的な言葉を根底に織り成された物語。羊の流す血はあまりに濃く、羊の鳴くうたはあまりに悲哀だったのですね。
読了後、感動とは違う言いようのない涙が流れました。何故だろう。この涙の理由を誰か教えてください。